拝啓
春和の候、穏やかに心和む季節となりましたが、ますますご清栄のこととお慶び申しげます。広沢新名古屋市長におかれましては、日頃より市民生活の向上に対するご高配に厚く感謝申し上げます。
私共は「名古屋城天守の有形文化財登録を求める会」と申します。
ご存知のように、名古屋市民は、名古屋大空襲の戦災によって失われた名古屋城天守を、昭和34年に、総工費6億円の内、三分の一を市民自らの寄付によって賄い、現存する名古屋城天守建物を再建いたしました。
現存天守は文字通り市民の手によって再建された、戦後復興期のシンボルであり、貴重な遺構であります。築後65年を数え、その優美な外観復元とともに充分に有形文化財として長く保存する価値のある歴史的建築物であります。
この度、名古屋市の新市長となられました広沢様に、以下のような提案並びにご質問をさせていただきます。ご多忙中とは存じますが、ご回答いただければ幸いです。
1.名古屋城に関する史資料の「世界の記憶」への登録のご提案 「世界の記憶」(Memory of the World)とは、世界的に重要な記録物を保存公開するためにユネスコが1992年に設けた事業です。対象になるのは、手書き原稿、書籍、新聞、ポスター、地図、映画・フィルム、写真、デジタル記録等となっています。
日本の近世城郭は、姫路城が世界遺産登録されているように世界的に見て特異な建築様式であり、名古屋城は、近世城郭の到達点で、近世城郭史上、最盛期の技巧を示していました。
その名古屋城についての貴重な記録である「
金城温故録」、「徳川義勝侯撮影の写真」、「
昭和実測図」などの史資料は「世界の記憶」として登録するのにふさわしい条件を備えています。
名古屋城天守の木造復元で1000年後には世界遺産登録をとの願いが唱えられておりますが、木造復元が見通せない中、上記史資料の「世界の記録」への登録は現状でも可能と思われます。また、天守木造復元、現コンクリート天守存続の如何にかかわらず実現可能でもあります。
名古屋市におかれましては、上記史資料の「世界の記録」への登録を行われるよう、お勧め致します。
( 参考:文部化科学省HP
https://www.mext.go.jp/unesco/006/1354664.htm )
2.本質的な方針の変更に伴う現存天守の価値の再考について 河村前市長は、名古屋城木造復元に対して「史実に忠実な本物の復元を行う」とされていましたが、広沢新市長は「文化財の資質を損なわない復元を行う」とされておいでです。
現存名古屋城天守は、筑後65年が経過し、優美な外観復元は往時の姿を忠実に再現しております。また、RC造とはいえ、曲線をなす唐破風などは、現在の型枠技術では再現不可能と言われるほどの優れた建築技術の成果でもあります。
このように価値のある現存天守を破壊してしまうのではなく、耐震改修に依って維持延命を行い、同時に登録有形文化財とされるお考えはございませんか。
3.安全性の評価、歴史的復元計画という意義を踏まえた資料の全面公開を求めます 名古屋市は名古屋城天守木造化について、建築基準法の適用除外を受けるために、現在の建築基準法からの逸脱は許容されるとのお考えのようですが、この適用除外には建築審査会の同意が必要とされ、法同等の安全性を担保するよう求められております。
また、名古屋城天守の復元であるとするならば、歴史的意義も高い計画であろうと存じますが、基本計画の資料等が黒塗りとなり、どのように安全が担保されているのか、そして歴史的再建がどのような経過を経て実現されていくのか不明であります。
名古屋市民のみならず、歴史的建築物の復元計画という学術的意義も踏まえ、こうした資料については全て公開されるお考えはありませんか。
4.広沢新市長の所信についての市民説明会の開催を求めます 現在名古屋城天守木造化計画は残念ながら停滞しているものと感じます。こうした経過、理由についてご説明いただき。また同時に広沢新市長の所信も市民に明らかにするため「市民説明会」を 開催するお考えはありませんか。
5.改修費用、収支計画についての市民説明会の開催を求めます 今まで名古屋市は名古屋城天守木造化に係る費用について約505億円との説明を続けてきましたが、名古屋市観光文化交流局ナゴヤ魅力向上室が発行、配布された「名古屋城天守閣の整備」とのパンフレット(2016年6月発行)において、支出費用の計が979億円にのぼるとの説明がされています。
その内容は「建設費、元金約505億円、利子約101億円、運営管理費276億円、集客促進費2億円、修繕費31億円、基金積立64億円」であると記載されております。
これについて、「木造建築物の60年にわたる修繕費が31億円では賄えない」との専門家の指摘があります。ちなみに名古屋城は姫路城に対して容積で約3倍以上の差がありますが、姫路城では1956年の「昭和の大修理」で約5億円。2009年の「平成の大修理」で約28億円の費用がかかりました。その他毎年改修費用がかかっています。
名古屋城木造化計画においては、本体計画だけではなく、階段体験館ステップ名古屋の設置、名古屋城調査研究センターの開設、木材保存費用等、予定には無かった費用もかかっております。現状で完成までに幾らほどかかるのか、そしてその収支計画はどのようになっているものか、市民に対してご説明いただく「市民説明会」を 開催する予定はありませんか。
6.名古屋市が把握する文化庁の鉄筋コンクリート造天守に対する見解を伺います 河村前市長は平成26年6月27日、名古屋市会本会議における発言で以下のように述べておられます。
「天守閣につきまして(略)鉄筋コンクリートによるもう一回再建は認めないということを文化庁がはっきり言っております。したがいまして、あと何年もつか知りませんけど、30年なのか、50年なのか、100年なのかわかりませんが、もう朽ちたときにはあれは壊さないけません。(略)何にもなしになってしまうのか、それとも、木造再建をするかということで(略)」
つまり、文化庁は名古屋城天守について「鉄筋コンクリートによるもう一回再建は認めない」ので現在の天守建物が老朽化した後には「何にもなしになってしまうのか、それとも、木造再建をするかという」選択を迫られる。との答弁であったと解釈いたしますが、文化庁が「鉄筋コンクリートによるもう一回再建は認めない」との方針を示した事実は確認されましたでしょうか。
7.2つの文化庁の見解について広沢新市長の所見を伺います 上記の河村前市長が述べられた文化庁見解とするものは、令和2年6月に文化庁より示された「史跡等における歴史的建造物の復元の在り方に関するワーキンググループ」の「取りまとめ」である「鉄筋コンクリート造天守等の老朽化への対応について」(以下、「文化庁取りまとめ」と記載します)における見解と矛盾するものであると考えますが、広沢新市長におかれましてはどちらの見解に立たれますでしょうか。
8.誤りの指摘されている「2万人アンケート」のやり直しを求めます 2016年(平成28年)に行われた所謂「2万人アンケート」において、名古屋市は「現行天守閣を耐震改修した場合でもコンクリートが概ね40年の寿命」などと記載しましたが、これは上記「文化庁取りまとめ」において示された「RC建物の耐久年数が50年と言われていることもあるが、それは財務省令におけるRC建物の減価償却上の年限であり、RC建物自体の寿命を指すものではない。老朽化対策が適切に行われれば、相当年数長寿命化を実現することは不可能ではないと考えられる」との見解とは異ります。
「文化庁取りまとめ」において文化庁は「RC造天守は、その多くは往時の外観を模して再現されているように、史跡等の往時の姿を今に伝え、その本質的な価値を正しく理解していくうえで一定の役割を果たしてきた。」として現存する名古屋城天守を含むRC造天守に対して肯定的な評価を与えています。
名古屋市はこうした文化庁の見解も踏まえ、改めて市民に対し、先行する大阪城天守閣における平成の大改修にならった、コンクリートの脱アルカリ化及び耐震補強工事の実施を行い、昭和34年に市民からの多額の寄付によって再建された現存天守建物を守っていくべきか、多額の費用を払って木造天守を建造するべきか、民意を問うアンケート等を実施すべきであると思いますが、広沢新市長におかれましてはどのような見解を持たれますか。
9.世界的なバリアフリーの新技術募集によって判明した事実に対する見解 名古屋市は2019年(令和元年)に昇降技術の実験施設として、総工費9040万円をかけて階段体験施設「ステップなごや」を開設し、「史実に忠実な復元とバリアフリーの両立を目指し、昇降技術を世界中から募り、実用化して木造天守へ導入することを目的とします」(「名古屋城木造天守の昇降技術に関する公募」の実施について(令和4年4月18日)より)として、開発契約費8千万円、導入契約費2億円(ともに上限)(「名古屋城木造天守閣の昇降に関する公募 公募要領」(2022年7月)より)を示し、昇降技術を公募し、2022年(令和4年)に優秀提案者を選定いたしましたが、その提案においても結局「史実に忠実な復元」と「(法の要請する)バリアフリー」の両立は叶いませんでした。
すなわち現代社会の技術力ではこの両者の要望を両立させることはできないと判明したわけです。
現在の天守建物は、河村前市長の上記平成26年6月27日発言に依るとしても、30年程度は保つものと考えられ、30年もすれば「史実に忠実な復元」と「バリアフリー」の両立を叶える技術の開発が為されるかもしれません。現代社会の技術力で実現できない計画については延期し、見直すべきと思料いたしますが広沢新市長におかれましてはどのような見解を持たれますか。
10.現存天守は唯一無二の存在であるという歴史的意義について 木造復元天守が、今、歴史的必然性もなく復元できるというのであれば、それは費用さえかければ、いつであっても復元することはできるということです。上でご指摘いたしましたように、現代社会には存在しない、「史実に忠実な木造復元」と、「バリアフリー」の両立を叶えるような技術が開発されてから、改めて木造復元を行うことは可能でしょう。将来にわたり再度、火災等によって消失しても、費用さえかければ幾らでも再建可能であるということです。しかし、第二次世界大戦で焼失し、戦後復興の象徴として再建された現存天守は、一度破壊してしまえばその歴史的意義は永遠に失われてしまいます。現存天守についての唯一無二の、取り返しのつかない歴史的意義について広沢新市長はどのように受け止めていらっしゃいますでしょうか。
以上の提案並びに質問について、ご回答をいただければ幸いでございます。当質問及びご回答は、広く公表されますことを予めご了承ください。ご回答は2週間程度の猶予を持って下記回答先にご提示いただけると幸いです。
なお、末筆ながら新市長並びに職員の皆様のご健勝をお祈り申し上げます。
敬具
令和7年 3月31日
名古屋城天守の有形文化財登録を求める会